高松高等裁判所 昭和53年(行コ)6号 判決
高松市宮脇町一丁目一〇番一号
控訴人
向井裕
東京都千代田区霞が関三の一の一
中央合同庁舎第四号館
被控訴人
国税不服審判所長 岡田辰雄
高松市楠上町二丁目一番四一号
被控訴人
高松税務署長 三木光義
右両名指定代理人
山浦征雄
同
河野時造
同
三船隆
被控訴人国税不服審判所長指定代理人
渡部茂徳
同
亀山達夫
同
川村俊郎
被控訴人高松税務署長指定代理人
七条英夫
同
清水福夫
同
大麻義夫
同
中村隆保
主文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴人は、「原判決を取り消す。本件を高松地方裁判所に差し戻す。訴訟費用は、第一・二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、控訴人ら各指定代理人らは、主文同旨の判決を求めた。
控訴人の主張及びこれに対する当裁判所の判断は、次に付加するほか、原判決の事実及び理由記載のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴人は、昭和五三年六月二七日高松地方裁判所において原判決が言い渡されたが、それは、同月一日控訴人により、右判決の基本たる口頭弁論に関与していた合議体の裁判官全員(裁判長裁判官村上明雄・裁判官佐藤武彦・同小川正明)に対する忌避が申し立てられ、同月七日高松地方裁判所において右忌避の申立てを却下する旨の決定がなされ、これに対し高松高等裁判所に即時抗告が申し立てられてその審理中であるにもかかわらず行われたものであるから、民訴法四二条に違反し違法であつて、到底原判決の破棄を免れない、と主張する。
そこで、本件記録及び本件関係の裁判官忌避申立事件(高松地方裁判所昭和五三年(モ)第二二四号・高松高等裁判所同年(行ス)第三号)の記録を調査すると、原判決は、所論忌避の申立ての裁判確定前に言い渡されたことが認められるから、右言渡当時においては違法であつたものといわなければならない。しかしながら、原判決言渡後、所論忌避の申立てを理由なしとして却下する旨の決定が確定したことが認められるところ、右のように判決後忌避の申立てを理由なしとして却下した裁判が確定したときは、所論訴訟手続の瑕疵は治癒されるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和二九年一〇月二六日判決、民集八巻一〇号一九七九頁参照)から、もはや原判決の無効をいうに由ないものというほかはなく、控訴人の右主張は理由がない。
二 控訴人は、原判決は、合議体の一員である裁判官小川正明が昭和五三年四月一日付をもつて東京検察庁に転出しているにもかかわらず、これを補充しないでなされたものであるから、裁判所法二六条三項に違反し違法であつて、到底破棄を免れない、と主張する。
そこで、本件記録を調査すると、原判決書の末尾には、裁判官小川正明は転任につき署名押印することができない旨の付記が認められるから、特段の反証のない限り、原審における最終口頭弁論期日たる昭和五二年一二月六日から右裁判官において転補の辞令受領の日までの間に右裁判官も合議に加わつて原判決の内容を確定したものと認めるのが相当であるところ、右転補の辞令受領後右裁判官を除く他の二名の裁判官のみによつて原判決の内容が確定されたものと認むべき事跡はない。そうすると、原判決の内容は、基本たる口頭弁論に関与した三名の裁判官によつて適法に確定されたものというべきであるから、原判決に所論の違法はなく、控訴人の右主張は理由がない。
三 控訴人は、裁判長裁判官村上明雄あて昭和五二年四月二七日付書状をもつて、以後における本件裁判手続の教示を求めたが、これは、控訴人において、期日に出頭できなかつた事情を裁判所に連絡して期日延期の申請手続を取つたのに相当し、若しくは新たな期日指定の申立てがあつたものとみなされるべきであるから、民訴法二三八条を適用するのは違法である。また、裁判所としては、控訴人の右書状に答えて、三月内に期日指定の申立てをしないときは訴えの取下げがあつたものとみなされる旨の教示をなすべき義務があり、これを裁判所において怠つておきながら、民訴法二三八条を適用するのは違法である。以上の次第で、原判決は到底破棄を免れない、と主張する。
そこで、本件記録を調査すると、所論書状の記載内容は、控訴人がその準備書面において求めている釈明事項に対して被控訴人らの釈明が得られない以上、控訴人としては本件訴訟の進行に応じかねるにつき、右被控訴人として取るべき手続を教示してもらいたい旨のものにすぎず、右書状の提出をもつて、正当な理由に基づく期日延期の申請、若しくは期日指定の申立てがあつたものということはできないし、また裁判所に右書状に対する所論教示義務が存在するものとも考えられない。したがつて、原判決にはなんら所論の違法はなく、控訴人の右主張はいずれも理由がない。
四 控訴人は、昭和五二年九月二八日付(同年一〇月一日受付)「裁判継続申立」と題する書面をもつて、口頭弁論期日指定の申立てをなし、これに基づいて原審第一二回口頭弁論期日が開かれ、口頭弁論が行われたが、それらの結果、訴えの取下げ擬制の効果は消滅し、訴訟手続は正常に復するに至つたから、本件訴訟は訴えの取下げがあつたものとみなされ終了した旨言い渡した原判決は違法であつて、到底破棄を免れないと、主張する。
そこで、本件記録を調査すると、所論期日指定の申立てにより原審第一二回口頭弁論期日が開かれ、従前の口頭弁論の結果陳述の程度で弁論終結に至つたことが認められるが、民訴法二三八条による訴えの取下げ擬制の効果は確定的に生じるのであつて、その後になされた所論期日指定の申立て等により、いつたん終了した訴訟係属が復活するものではない。したがつて、原判決に所論の違法はなく、控訴人の右主張は理由がない。
五 控訴人は、旧民訴法において一年とされていた期日指定の申立期間を三月に短縮した民訴法二三八条は、裁判所から当事者に対し、右期間(三月)内に期日指定の申立てをしないときは訴えの取下げがあつたものとみなされる旨の教示をなすことを要するものとするか、若しくは右期間(三月)経過後も旧民訴法の期間(一年)内である九か月間は訴えの取下げがあつたものとみなすのを猶予する旨の解釈を可能とするものでなければ、国民にとり不利益な変更であつて、その裁判を受ける権利を侵害することとなるから、憲法三二条に違反する、と主張する。
そこで、右の点について判断するに、憲法三二条は、何人も裁判所において裁判を受ける権利があることを保障する規定にすぎず、法律において諸般の事情を考慮し、所論期日指定の申立期間を合理的範囲内において適宜定めることができるのであつて、民訴法二三八条が定める期日指定の申立期間(三月)が右合理的範囲を逸脱しているとは認められないから、同条をもつて憲法三二条に違反するものということはできない。したがつて、控訴人の右主張は理由がない。
以上の次第であるから、原判決は相当であつて、本件各控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小西高秀 裁判官 古市清 裁判官 上野利隆)